皆さんは遺産相続についてどういうイメージをお持ちでしょうか。
遺産相続とは、親族が亡くなったあとその財産を遺された家族が引き継ぐことですが、愛する家族・親族が亡くなり悲しみに暮れている時、その遺された財産を巡って家族間で争いが起きてしまったとしたら・・・
実際、平成24年度の司法統計によると、裁判所に相続関係のことで相談に訪れる件数が年間で174,494件もあり、さらには年間11,737件が裁判にまでいたっています。
このように、私には関係ないと思っていても意外と身近に発生している遺産相続問題ですが、家族関係が入り組んでいる場合にはより注意が必要になります。
例えば、夫・妻ともにバツイチ同士で再婚し、それぞれ前の配偶者の間に子どもがいた場合、家族関係・相続人関係が複雑となり、深刻な問題が起こり得ます。
そこで、今回は具体的な事例を用いてどういった問題が発生するおそれがあり、なにをしておくべきかについて紹介していきたいと思います。
もくじ
バツイチ子持ち再婚時の相続人は誰か
人が亡くなり相続が開始されたとき、その亡くなった人を被相続人と呼び、財産を受け継ぐ家族・親族を相続人と呼びます。
そして、この相続人には誰がなり、どれぐらいの財産を相続するかというのは、民法で定められています。
これを法定相続人と呼びます。
法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者のみ | 1/1 |
配偶者と子ども |
配偶者:1/2 子ども:1/2を人数で按分 |
配偶者と直系尊属 (子どもがいない場合) |
配偶者:2/3 直系尊属:1/3を人数で按分 |
配偶者と兄弟姉妹
(子ども、直系尊属がいない) |
配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4 |
例えば、夫婦と子どもがいる家族の場合で夫が亡くなった場合、妻と子どもが相続人となり、それぞれ財産を1/2づつ受け継ぐことになります。
では、夫(A)・妻(B)ともにバツイチ子持ちで再婚した後、夫が亡くなった場合、その相続人は誰になるかを考えてみます。
まず現在の妻は当然相続人となります。
また、夫と妻の間に新たに子ども(C)が生まれていた場合、その子どもも相続人となります。
ここで、夫の前妻(D)とその間に生まれた子ども(E)が相続人となるかについてですが、前妻(D)は離婚しすでに配偶者ではなくなっているため相続人とはなれませんが、その間に生まれた子ども(E)は夫(A)の子どもであることに変わりはないため相続人となります。
つまり、妻(B)、妻との子ども(C)、前妻との子ども(E)の3人が相続人となり、それぞれ妻(B)が1/2、妻との子ども(C)が1/4、前妻との子ども(E)が1/4づつ財産を受け継ぐことになります。
バツイチ子持ち同士で再婚した場合は、前の配偶者との間の子どもを引き取っているかどうかに関わらず、その子どもにも財産を相続する権利がある、ということになります。
問題①遺産分割協議がまとまらない
被相続人である夫が亡くなった後、財産を法定相続人の間で分割するわけですが、上記の表にある割合で分割する必要はありません。
むしろ、相続人の間で話し合いを行い、どんな割合で財産を相続するかの合意を行い、その合意に基づいて『遺産分割協議書』を作成する必要があります。
この『遺産分割協議書』は全相続人が協議に参加し、それぞれが署名・押印する必要があります。
では、法定相続人である前妻の子ども(E)と容易に連絡を取ることができるでしょうか。
被相続人である夫(A)であれば前妻(D)やその子ども(E)の連絡先を知っていることはあるでしょうが、現在の妻(B)は知らない、といったケースもあるでしょう。
もし、この『遺産分割協議書』がないと、被相続人(夫)名義の財産は相続人全員の共有財産となり、自由に処分することができません。
例えば、夫が亡くなったあとの葬儀代を、生活口座でもある夫名義の口座から引き出して支払おうと思っても、『遺産分割協議書』がなければ口座が凍結され引き出すことができません。
もし、葬儀代を支払うだけのお金が妻の口座に残ってなかった場合、親や親戚、場合によっては金融機関から一時的であっても借金をしなければならない、という事態が起きてしまいます。
問題②妻(B)vs前妻(D)
もう1つの問題は、もし前妻(D)との間の子ども(E)が未成年の場合、法定相続人ではあるものの、遺産分割協議や『遺産分割協議書』への署名・押印といった行為はできないため、代理人が必要となります。
そして、この代理人は一般的に親権者がなるため、もし前妻(D)がその子ども(E)を引き取っていた場合、妻(B)とその子ども(C)、そして子ども(E)の親権者である前妻(D)の3人で遺産分割協議を行わなければなりません。
①で述べたとおり、前妻(D)やその子ども(E)と連絡がとれるかどうかという問題に加え、妻(B)と前妻(D)との間に感情的な対立があり、遺産分割協議がスムーズにまとまらない、といったケースが大いに考えられます。
例えば、葬儀代については妻(B)が支払っていることが多いため、通常の遺産分割であればそのことにつき相続人の間で配慮がなされると思われますが、前妻(D)からは合意が得られず協議がまとまらない、ということもあるでしょう。
また、分割する財産が自宅くらいしかない場合に前妻(D)が遺産相続の権利を主張すれば、その金額を支払うために家族の思い出のある自宅を売却せざるを得ない、といったケースもありえます。
さらには、前妻(D)との離婚原因が夫(A)側にあった場合は、嫌がらせのためにわざと合意をせずに分割協議がまとまるのを遅らせようとすることもあるかもしれません。
問題③子ども(C)vs子ども(G)
夫(A)が亡くなり、様々な遺産分割問題を乗り越え、無事妻(B)と子ども(C)が遺産を受け継ぐことができたとします。
次に、妻(B)が亡くなった場合、今度は妻(B)の前夫(F)とその子ども(G)が登場します。
今まで述べてきたとおりで考えると、妻(B)が亡くなった場合の相続人は夫(A)との子ども(C)と妻(B)の前夫(F)との子ども(G)の2人になります。
つまり、今度は子ども(C)と前夫との子ども(F)との争いになるわけです。
この場合も夫(A)がなくなったとき同様に、連絡先が分からない、遺産分割の合意が得られないなどの問題が起こり得ます。
まして、子ども(C)と前夫との子ども(F)との間にはほとんど面識がないことが多いでしょうから、より問題が大きくなることも考えられます。
遺産分割問題を起こさないためにやるべきこと
ここまで述べてきたとおり、夫婦ともにバツイチ子持ちで再婚の場合、その家族関係と相続人関係が入り組んでいるため、色々な問題が発生する可能性があります。
そこで、そうならないために事前にやっておくべき3つの対策を紹介します。
ⅰ)遺言を書いておく
生前に遺言を書いておき、財産の分割方法について意思表示を行うことで遺産分割をスムーズに進めることができます。
遺言があれば、遺産分割協議を行う必要はありません。
ただし、法定相続人には本来財産を相続する権利があるため、その権利を保護するために『遺留分』という制度があります。
これは簡単に言うと、1/2(相続人が直系尊属だけの場合は2/3)については遺言など被相続人の意思で自由に財産を相続する相手や配分を選ぶことができ、残りは遺留分として法定相続人が最低限受け取れるようになっている制度です。
この遺留分さえ侵害しないような遺言の内容であれば、協議の必要もなくスムーズに遺産分割を進めることができます。
ⅱ)相続放棄の合意を取り付ける
問題は、前の配偶者との間の子どもも法定相続人になるということから発生しています。
そのため、例えば再婚時や再婚後に出産するときなどに、前の配偶者との間の子どもが相続人とならないよう、相続放棄の合意を取り付け、手続きをしておけば問題ありません。
ⅲ)生命保険を活用する
生命保険を活用することで、お金に名前を付けることができます。
どういうことかと言うと、生命保険の死亡保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産となるという性質を持っています。
夫(A)が妻(B)を受取人とした生命保険に加入しておけば、その死亡保険金額は受取人である妻(B)の固有の財産として扱われ、自由に使うことができます。
例えば、1000万円の財産があり、そのうちの500万円で妻(B)が受取人の生命保険に加入することで、『妻に500万円を渡し、残りをみんなで分ける』といった被相続人の想いを乗せることができます。
また、上記のケースで、前妻に財産を分割するために自宅を売却しなければならないような場合、生命保険に加入しておけばその死亡保険金を前妻に渡すことで自宅を守る、といったことにも活用可能です。
最も重要なのは話し合い
3つの対策を紹介してきましたが、その対策を考えるに当たってまず重要なのは、夫と妻の意思の確認です。
前の配偶者との子どもに対して財産を遺してあげたいのかどうか、どのくらいの金額(配分)なのか、そうしたことを再婚時や折を見て話し合い、意見をすり合わせておいて初めて対策を考えることができます。
相続はただでさえ愛する家族を失って悲しいときなので、さらに遺産分割問題で遺された家族を悩ませることのないよう、しっかりと準備をしておきましょう。